任意後見制度とは
本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、誰にどのような援助をしてもらうかを事前に自分で決めて、それを実行してもらうための後見人と呼ばれる人をあらかじめ決めておく制度です。
任意後見は、契約から開始するまでの時期によって、以下の3種類に分けることができます。どの型で契約するかは、本人の状態を考慮して決定する必要があります。
①移行型 … 財産管理から任意後見へと段階的に移行させていくもの。
②即効型 … 契約を結んだら直ちに任意後見を開始させるもの。
③将来型 … 将来の判断能力が低下した時に任意後見を開始させるもの。
任意後見制度の流れ
①今は元気なので何でも自分で決められるが、
将来認知症になったときのことが心配だ。
⇓ 現時点では判断能力に問題ない方のみ利用可
②信頼できる人(家族、友人、専門会社、弁護士等の専門家)と
任意後見契約を締結。
⇓ ★公証人役場で公正証書作成
③少し認知症の症状がみられるようになった。
⇓
④家庭裁判所に申立て。
⇓ 家庭裁判所が選任した任意後見監督人が任意後見人
の仕事をチェック
⑤任意後見人が任意後見契約で定められた仕事を行う。
★任意後見制度は必ず公証人役場で公正証書を作成する必要があります。
任意後見人に代理してもらう法律行為
①財産管理
→ 不動産や動産の処分等、賃貸借契約書の締結・解除、預貯金の管理・払戻
し、遺産分割等
②身上監護(生活又は療養看護)
→ 介護契約、施設入所契約、医療契約の締結等
定期的な訪問や電話などを通じて、本人の生活を見守るとともに安否確認
や認知症などによって判断能力が衰えていないかの確認。
メリットとデメリット
1、メリット
①本人の意思で任意後見人を選ぶことができる。
②本人が契約内容を自由に決めることができる。
③契約内容が法務局で登記されるので、任意後見人の地位が公的に証明され
る。
④家庭裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人の仕事をチェックして
くれる。
2、デメリット
①死後の事務や財産管理を委任することはできない。
②法定後見制度のような取消権がない。
③本人の判断能力が低下してしまった後には契約できない。
★もちろん任意後見契約によって、かなりの部分で本人の財産管理を将来の後見人候補が代行できるのですが、その権限には限界があり、何でも自由に決定できるというものではありません。
その点で、以下で説明する民事信託を活用することにより、信託契約された特定の財産については、元の所有者が認知症等になって自ら管理できなくなったとしても、受託者が元々の契約に従った管理行為を行うことができます。
民事信託について
信託とは、財産の所有者(=委託者)が、信頼のおける人・法人(=受託者)に財産(=信託財産)を託し、定められた目的(=信託目的)に従って財産を管理・承継する方法で、定められた受取人(=受益者)に対して財産が承継される仕組みです。信託では、自分の「生存中」から「死亡時」、そして「死亡後」までの長期間にわたり、自分の意向に沿った財産管理・承継を設定することができます。
民事信託は、老後の不安に合わせて信頼できる人に財産管理などを任せることができます。資産の大小にかかわらず誰でも利用でき、受託者が営利目的で行わないという点が商事信託との違いです。
民事信託の対象となるのはあくまでも「財産」のみであり、成年後見が対象としている被後見人に代わって入院や入所の契約をすることや、悪徳商法に騙された契約を取り消す行為などは、民事信託ではできません。
メリットとデメリット
1、メリット
①自分の生存中の財産管理の方法を柔軟に設定できる。
②自分の死亡後の財産承継を柔軟に設定できる。
2、デメリット
①成年後見、遺言でないとできないことがある。
②受託者を誰にするか選任が難しい。
★このように、信託は基本的には一定目的のために信託財産の管理、処分、運用を行うものなので、本人の身上監護の面においての機能を備えているわけではありません。ですので、財産の管理と本人の生活、療養看護を十分に図っていくためには、任意後見や成年後見との併用をお勧めいたします。