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相続した不動産の時効取得について

2023.10.20

1、序論

亡くなった被相続人(父)が所有していた不動産について、相続人が長男、次男、長女の3名で、長年遺産分割協議をしないまま長期間長男がその不動産を占有・利用していた場合に、その不動産を長男が全て取得したということができるかどうかが問題となります。

 

2、取得時効について


(1)取得時効とは

民法で取得時効という制度があります。取得時効とは、他人の財産でも、長期間占有を続けた場合、その財産の所有権を取得できるという制度です(民法第条)。

(2)自主占有

この占有は、所有者として占有する意思が必要であり(自主占有)、それ以外の占有(他主占有)では時効取得は認められません。例えば、賃貸マンションで借主が長期間占有しても、それは所有者として占有する意思ではないので時効は成立しません。

(3)時効期間は10年(叉は20年)
自分が所有者でないことを知っていたり、所有者として信じることに過失がある場合(悪意・有過失の場合)は、20年の期間で時効の主張(援用)をすることができます(民法第162条第1項)。

自分が所有者であると信じて(善意)、信じることについて過失がない場合(無過失)は、10年の時効期間で時効が成立し、時効の主張(援用)をすることができます(民法第162条第2項)。

3、遺産分割未成立で長期間占有された不動産の取得時効について

(1)被相続人が父で、相続人が長男、次男、長女の3名の共同相続で、遺産分割協議が成立しないまま、長男が相続後に単独で長期間不動産を占有していた場合、長男は時効を主張して全て自分が単独で不動産を取得したといえるかどうかが問題となります。

(2)長男、次男、長女が各3分の1で相続した共同相続人の共有不動産であり、長男は自己の法定相続分3分の1を超えた他の共有持分権(次男3分の1、長女3分の1)については所有の意思をもって占有(自主占有)しているのではなく、他人の共有物を管理しているにすぎないので(他主占有)、原則として長男が長期間占有しても時効を理由に全て自分が単独で不動産を相続したと主張することはできません。

(3)  ただし、判例は、共同相続人の1人が他に共同相続人がいないことを知らないために単独で相続権を取得したと信じて当該不動産の占有を始めた場合など、「その者に単独の所有権があると信ぜられるべき合理的な事由がある場合」には例外的に取得時効を認めています(最高裁昭和47年9月8日判決)。

 

共同相続人の1人が取得時効の成立を主張する場合、

①その1人が単独で相続したものと信じて疑わず、

②相続開始とともに不動産を現実に占有し、

③賃料等の管理使用収益を独占し、

④固定資産税等の公租公課を自己の名で負担したが、

⑤他の共同相続人がそのことについて異議を述べていない場合。

 などは例外的に時効取得を認めます。

 

時効取得が認められた事例としては、養子である他の共同相続人が離縁したと思い込み、相続人は自分1人だけと誤信した場合(東京高裁昭和52年2月24日判決)、養子となった者が養子縁組の前後で自分の他に子がいると聞かされておらず、唯一の相続人であると思い込んでいたという事例(東京地裁昭和58年9月27日判決)などで時効が認められました。


(4)以上のとおり、共同相続の場合に1人の相続人(長男)が遺産分割協議未了の事例で長期間不動産を占有しても、原則としてその人は時効を理由に全て自分が単独で不動産を時効で取得したという時効の主張は認められず、例外的な場合にのみ時効が認められるということとなります。

 

以上                            

 

 

筆者紹介

柳沢 賢二
柳沢法律事務所
弁護士

一、弁護士として、依頼者のために、一つ、一つの案件について、専門家としての①専門性の高いサービスを、②迅速に提供することを心がけています。そして、常に依頼者のために、一つ一つの案件を全力で取り組んでいきます。

二、今、高齢者社会において、相続の問題は誰もが直面する重要な問題だと思います。今までの自分の人生の集大成を納得のいく形で終えれるように、残された家族の方々が困らないように、専門家として皆様の力になれる適切な解決方法の提案やアドバイスをしていきたいと思います。

三、相続の分野でも、紛争後の裁判所での訴訟業務だけでなく、紛争を事前に防ぐ予防法務的な視点から、遺言書の作成、任意後見・成年後見の活用、事業承継のアドバイスなどにも力をいれ、皆様の力になれるアドバイスをしていきたいと思っています。

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